「小平、500で20連勝」 スピードスケートW杯第2戦・女子500㍍ 37秒07で優勝した小平奈緒。この種目で国内外での20レース無敗となった。左は韓国の李相花=11月18日、ノルウェー・スタバンゲル(撮影・金刺洋平)
「岐阜・長良川に恋の季節」  長良川の支流・板取川の川底を移動するオオサンショウウオ=9月4日、岐阜県美濃市(撮影・染谷宗秀)
「岐阜・長良川に恋の季節」  長良川の支流・板取川で呼吸のために水面に浮上し、反転して巣穴に戻るオオサンショウウオ=9月4日、岐阜県美濃市(撮影・染谷宗秀)

11月も半ばを過ぎ、東京写協で恒例の報道写真展や協会賞の候補作品を選ぶ作業が続いた。私は共同通信の担当デスクとして、この一年間、自社のカメラマンらが撮影・出稿した写真の中からいわゆる「いい写真」をピックアップし、審査会に持ち込み、加盟各社の委員の皆さんと共に優れた1枚を選び出す作業を行ってきた。一方社内では、間近に迫った韓国・平昌冬季五輪に向け、担当カメラマンが本番想定の速報態勢でビュンビュン送ってくるウィンタースポーツの写真を受ける毎日となっている。今はカメラに専用の無線機を搭載する「最速モード」で臨めば、画像をパソコンで開くことなく、撮ったその場から写真を次々と送れるようになった。

 カメラマンにコマを選んでボタンを押す短い時間と余裕さえあれば、競技の1~2分後には、いや競技中でも、本社のサーバーに送られてくる。つい先日も欧州であったスピードスケートW杯で小平奈緒選手が優勝し、昨季から続く国内外無敗記録を20にまで伸ばしたレースで、優勝の速報記事が流れる前に、小平選手の滑走写真(写真1)が送られてきた。それも「ライバル置き去り、500㍍無敵の小平」などといった翌日の見出しを予見したかのような、見事な競技の「絡み」写真を。速報、ここに極まれり、といった感じだ。こんな時はデスクは右から左に流せばいい。しかしいまひとつ写真が決まらず、カメラマンが選択に迷って(これだけ急ぎであれば無理もないことだが)たくさん送信してきたような時には、短時間にコマを選び、最適な形で出稿するのは受けたデスクの役割だ。

 しかし、どんなにスピード化が進んでも、いつの時代も変わらない大切なことがある。それは当たり前だが、優れた写真であるかどうかだ。インターネットで速報され、翌日に新聞で読まれ、場合によっては年末の報道展で展示されても訴求力を失わない写真は、報道における究極の「いい写真」だろう。そこでいつも思うのが、いい写真とそうでない写真を分けるものは何かということ。デスクとして直感的に迷うことなく選び出し、当たることはもちろんある。それが仕事だから、そうあるべきだとも思っている。しかしいつも間違いなくそれをピックアップしているだろうか。審査会に参加してきて、これが実はなかなか難しいことだと感じている。自信を持って持ち込んだのに全く賛同が得られなかったり、迷いながら持ち込んだものが高く評価されたりすることがしばしばだからだ。報道における「いい写真」とはニュースを的確にかつ雄弁に伝え、迫力・臨場感にあふれインパクトもあり、多くの共感・関心を集める写真。この定義に異論は少ないと思う。が、ある個別の写真がおもしろいか、インパクトがあるかとなると個々の感覚によるものだけに、いつも一致するとは限らない。

 ここに、今年、自社が出稿した数多の写真の中で、私の印象に残っている、ある写真を紹介したい。上のスピードスケートが究極の速報スタイルなら、こちらはその対極。「オオサンショウウオが繁殖期を迎え、水中を忙しく泳いでいる」という話題ものだ(写真2と3)。9月、岐阜県の長良川の支流で染谷宗秀カメラマンと西澤幸恵カメラマンがチームとなって潜水撮影した。ニュース性はさておき、私はつくづく「いい写真」だなと思った。説明するのは野暮な気がするが、敢えて言うなら意外性か。オオサンショウウオというとなんだかのんびり、ぼてっと川底や水槽でじっとしているか、せいぜいゆっくり這っているイメージだが、ここではなんと軽やかに泳いでいることか。体長1メートルを超す巨体を揺すって、澄んだ水の中を浮遊している。テレビで映像を見たことはあったが、スチル写真で見せられるとインパクトが違う。そして光がいい。逆光の方はライティングだが私には気にならない。水の質感や量感、冷たさまでもが伝わってくるようだ。これをものにするためにかなりの準備をしただろう。生態を調べ(普段は夜行性だが、繁殖期前の8月末から9月にかけては昼間も活動するらしい)、よく知る人に聞き、撮れないかもしれないという不安を押して企画し、機材を準備し、冷たい川に潜って、出現を待ち、動きに合わせて、撮る。涙ぐましい努力の結晶だと思うと余計にすばらしく思えてくる。これらは加盟の地元紙や全国紙を含む数紙に掲載された。後の審査会での反応はそれほどでもなかったが、速報写真とは趣の違う、私には味のある、印象に残る写真だった。

 大きな水害が多発し、国内外の政治が動き、残酷な事件が起き、人々に愛されたスポーツ選手の引退など、今年もいろいろなニュースがあった。カメラマンの伝えたいという思いが伝わってくる、たくさんのいい写真に出合ったことを、年末を前にあらためて思った。



2017年12月