ポロリ・山崎安昭撮影

ノック・野上伸悟撮影

カメラマンじゃなくて良かった。写真部長になるまで記者一筋だった者にとって、やり直しや追加取材のできないシビアな世界で生きていく自信はない。
写真は一瞬、一瞬が勝負で、カメラマンは決定的瞬間を追い求めてシャッターを切る。試合展開を見ながら「今だ」という瞬間だけならいい。やっかいなことに、後から「あの瞬間」を、という状況がしばしば出てくる。

今年5月8日の巨人×DeNA戦で「あの瞬間」が起きた。巨人が2点差に迫られた9回2死二塁、巨人阿部は捕ればゲームセットになる捕飛を落球した。その後に同点とされ、勝利は消えた。カメラマンは落球の瞬間を撮っていた。よしよし。のはずだったが、元巨人の篠塚和典氏による、まさかの評論家原稿が待っていた。

阿部の落球には、3時間前に伏線があったという。試合開始直前のシートノックで、勝呂守備走塁コーチが、最後に打ち上げる捕飛を数回ミスした。ベンチに引き揚げかけた皆を阿部が押し留めるようにもう1回要求。勝呂コーチは完璧な捕飛を打ったが、阿部は笑いを取ろうと思ったのか、打球も見ずにベンチに向かって歩いていた、という内容だった。こうなると、3時間前の決定的瞬間がほしい。これが「あの瞬間」である。

カメラマンなら試合前練習は当然撮っているだろうと思う。ところが、シートノックの時間帯は取材陣にとってスキの出やすい時刻にあたる。試合開始が迫り、腹ごしらえの時間となる。気持ちも目の前の練習よりも、試合へ向けた戦闘態勢モードに入る。記者もカメラマンも脇が甘くなる。現役時代に2度首位打者に輝いた名選手とは違い? 3時間後、言い訳のできない厳しい状況を突きつけられる。

記者ならば対処の仕様がある。後からいくらでも取材ができる。ところが、カメラマンはそうはいかない。撮っていなければおしまいである。幸いにも、当日のカメラマンは3時間前の「あの瞬間」を撮っていた。「普通ですよ」との言葉にカメラマン魂が漂う。もし、私がペンではなく、カメラを持たされたら「普通ですよ」と言えるだろうか。写真部に異動して1年4カ月。記者で良かったと思う日々を過ごしている。