転覆した「第一幸福丸」から4日ぶりに救助される乗組員=NHKヘリから(動画から静止画に変換)

 1年前の10月28日、八丈島近海で撮影したこの映像は、新聞の複数紙が一面で掲載してくれたことから、昨年、初めて東京写協の報道展に出品させていただいた。メディアの違いについて、選考過程でさまざまな議論はあったと思うが、いろんな意味で記念すべき映像となった。こんなチャンスも、もうなかなかないだろう。

 

 行方不明となった漁船の乗組員が転覆した漁船から4日ぶりに奇跡的に救出される瞬間をとらえたものだが、とにかく、尊い命が救われた瞬間であったことが見る人を感動させたと思っている。おかげさまで、このテレビ映像は、今年度の新聞協会賞を受賞することができた。テレビの強みは映像と音。上空のヘリコプターからの空撮のため、助かった本人の肉声を聞くことはできないが、水中から日常の空間に戻ってきた瞬間、乗組員が、最初になんと発したのか、その言葉が想像される。

 

 日ごろから事件事故をはじめ、緊急報道では、早さ、正確さ、決定的瞬間を競っている各社だが、読者や視聴者の期待に応えるには、より多様な発信が必要だと感じているのは共通した意識だろう。最近、明るいニュースがめっきり少なくなった中で、久しぶりに心和らぐ話題が映像とともに地方から届いた。

 

 地方局のカメラマンが提案したリポートの内容は「飛行犬」。連日の盛りだくさんのニュースで、放送が延び延びになっていたが、先日やっと全国放送になった。

 「飛行犬?」。かつて「潜水犬」といった話題もあり、はじめは、ゴーグルでもして、パラグライダーでもするのかと思っていたら、ほんとうに飛んでいる!?

 (※残念ながら、著作権の関係で掲載はできないが、興味のある人は、一度「飛行犬」で、検索を・・・)

 

 記念写真にとどまらないインパクトのある犬の写真が撮れないか、兵庫県の地元の写真館から独立したカメラマンが、そう考えていた時にたまたま撮れたのが、空を飛んでいるかのような躍動感あるこの写真。記念写真に満足しない愛犬家たちが、全国からそのインパクトのある写真に魅せられ、集まってくる。

 

 取材したカメラマンによると、年々、口コミやネットで噂は広まり、1日に最高で30匹、年間にのべ3000匹もの犬たちが飛行犬になろうと飼い主に連れられてくるそうだ。中には、飛行犬になるには少し適齢期を過ぎた犬もいる。なんとか元気なうちに、その姿を写真に納めたいと思う主は、日ごろの運動不足もなんのその、息を切らしながら、愛犬と共に全力疾走する。その願いをプロがその技術で写し込む。時には、望遠レンズで写す秒間10コマの連写でも、成功するのはたった1枚。飼い主の切なる思いを受け、その一瞬にプロの技で応えようとする話と愛きょうのある写真に、思わずほほえんでしまった。

 

 わたくしごとだが、わが家の飛行犬候補生は、御年15歳。いまだ、独身。このニュースを見て、プロの技で・・・という気持ちもあるが、最近は持久力も衰え、果たして、飛べるのか、いや、宙に浮くのか、自信はない。

 

 1枚の写真をめぐる人々の思い、カメラマン自身が撮影するだけでなく、こうした思いを映像で伝えるのも、大切な役目だと思う。

 

 スチルとムービー、いま、その距離は確実に縮まっている。スチルカメラにハイビジョン動画撮影機能が加わり、ハイビジョン映像からは、高画質の静止画が加工できるようになった。これまでどおり、手法の違いはあれど、映像・写真で人々に感動を伝えるという思いがカメラマンの原動力となっていることに変わりはないと思っているが、このボーダレスな動きは、これから、カメラマンたちにどのように影響を与えていくのだろうか。

 

 そうしたこれからの変容の可能性とともに、ただ歴史を記録することに満足するのではなく、映像を通して、その周りにある人々の思いをどれだけ伝えることができるのか、カメラマンのカメラマンたる存在理由が、よりいっそう求められていくだろうと感じている。