私がこのコラムを書くのは、今回で3回目となりました。今回は国民栄誉賞を受賞した長嶋監督のエピソードについて書きたいと思います。
1999年2月、私は後輩カメラマンと2人で巨人宮崎キャンプを取材していました。当時、サンケイスポーツが新雑誌「週間ゼッケン」(休刊)の発刊を準備中で、フロントグラビアの目玉にON特集を企画していました。グラビア用にデスクが私たちにリクエストした写真は長嶋監督の「手相」でした。王監督の手相と比べたいそうです。

しかし、常に大勢の記者や関係者に囲まれている長嶋監督に、我々カメラマンが直接お願い出来るタイミングはなかなかありません。そこで、巨人軍広報に取材を要請しましたが、OKが出ませんでした。仕方なく、我々2人はキャンプの期間中、長嶋監督の「顔」ではなく「手のひら」を写真に収めることを最大の目標にしました。監督に密着し、望遠レンズで手のアップを狙いました。時には背後に回りこみ、後ろに組んだ「手のひら」を撮影しました。きっと長嶋監督は背後から聞こえるシャッターの音を不思議に思ったことだと思います。しかし、努力の甲斐なく、ハッキリと手を開いた写真を撮ることは出来ませんでした。

そしてキャンプ最終日の朝、思いもよらない申し出が広報からありました。監督と直接交渉する機会をくれるというのです。それも練習開始早々、グランドのど真ん中で・・・。
いつものように、グランドをランニングする選手。
マウンド付近で腕組みし、選手を見守る長嶋監督。
スタンドを埋めた大観衆。大勢の報道陣。
そんな中、私一人が広報に背中を押し出されてマウンド付近へ・・・。緊張からか足が震え出しました。マウンドで待っているのはあの長嶋監督です。
大観衆の中、ミスターと二人きり・・。勇気をふりしぼり、何とか声を出しました。「監督、手相の写真を撮らせてください」と。

すると、あの甲高い声で「うーん・・手相は撮らせたことないんだよねー」
「それよりここを撮ってよ!」と前かがみになって自分の顔を指しました。
「いくらでも撮っていいよ。ねっ!」と笑顔でウインク・・・。
あ・・やっぱり気にしていたのですね、背中からのシャッター音。すみませんでした。でも、思いもしなかったミスターの笑顔に癒され「どうもありがとうございました!」と深く一礼し、退散いたしました。さすがミスターです。

後日、「王監督の手相を撮れ」という指令が出ました。早速福岡ドームへ出張し、試合前、王監督に手相の写真をお願いしました。NGかと思いきや、「あーいいよ」「これでいい?」と言う感じで拍子抜けするほど簡単に写真を撮らせてくれました。さらに翌日は、私の顔を見るなり、「今日は何かあるの?」と、逆取材されてしまいました。すかさず、デスクからリクエストのあった「腕時計」の写真撮影をお願いしました。本当にありがとうございました。

お茶目なミスターと飾らない王さん。子供の頃、テレビの中にいた偉大な二人と、初めて、お話しをさせていただいた時の、ちょっぴりハズカシイエピソードです。後日、「ゼッケン」のグラビア企画は「手相」ではなく、「手形」に変更になりました。長嶋監督、王監督(会長)、本当にお騒がせしました。