【写真】9月2日、福島県浪江町の幾世橋小学校の校庭を疾走する牛今年5月18日スタートした「朝日新聞デジタル」の購読数が10月末、5万件を突破しました。日経そして朝日が先行した有料デジタル版ですが、来春にむけて同業他社の電子版の動きが活発になりそうな気配だといいます。明確な答えや道筋のないデジタル版ですが、従来の紙だけではなくデジタル空間でも存在感を明確にする新しい新聞社の形を目指しています。

この朝日新聞デジタルにおいて、目玉の一つになっているのが「動画」です。動画は主に写真部員が中心に取材していますが、取材現場で「大きな変革期を迎え始めている」と実感する事例が時折あります。まさに「写真か、動画か」という命題です。ほんの数年前なら考える必要もない命題でしたが、いまは違います。現場を取材する写真記者にひとしきりの葛藤が芽生えています。

9月はじめ、中堅の写真部員が福島第一原発から半径20キロ以内の立ち入りが禁止されている「警戒区域」への同行取材に入りました。もちろん警戒区域に設定した地元・浪江町長の許可が得られての初めての取材です。「写真も動画もおもしろい映像を撮りたい」という記者魂がうずく現場です。

「二兎を負う者一兎を得ず」という諺どおり、ベストのシャッターチャンスは一瞬で一度だけ。前夜、取材を想定して「写真も動画もベストを撮ることはできっこない。動きがあり音声もある題材だったら、まずワンカットだけ写真を押さえ、それから即座に動画を撮ろう」と考え、取材方法を思い巡らせたそうです。

結果は、動画撮影された映像から切り出された写真が朝刊一面に掲載されました。無人となった小学校の校庭を疾走する牛の群れは迫力満点。校庭に響くドドドドッという足音が印象的な動画がデジタル版で扱われました。取材者曰く、「計算して動画で撮ったのならば胸も張れるが、たまたま流し撮り効果で画像が止まった」といい、「牛の疾走は写真で撮るべきだったか」「写真だったらもっとクリアな映像だったはず」と反省しきり。しかしおもしろい動画が撮影できたことで、「やはり動画で正解だったのかなあ」と結論づけていました。このときは、それなりに自らを落ち着かせたものの、「今後も同様の悩みに遭遇する気がする」と最近は話しています。

オリンピックごとにデジタルカメラは技術革新が進みます。先日、某メーカーから発表された来春発売の最新鋭機は、画素数も3割増強された高スペックなカメラに生まれ変わります。数年のちには「すべての撮影対象を動画で撮ったらいいじゃないか」との少し乱暴な意見も出るでしょう。質よりも写真の有無が問われる報道の現場では、動画からの切り出し映像を活用することも想定内になるでしょう。

とはいえ、写真は現在も未来も一瞬を切り取る世界です。写真のもつ情報量の多さ、そして人々の感動を呼び起こす印象度や訴求力からみても、写真の優位性は揺るがないと確信します。東日本大震災から8カ月近くたち、今年はつくづくその存在の大きさを感じています。