【写真】蘇州の日本料理店を襲う、暴徒化した反日デモの参加者=9月15日9月15日、日本政府による尖閣諸島国有化に抗議し、中国各地で「反日デモ」の嵐が吹き荒れた。デモ隊は日本の取材陣にも憎悪の牙をむいた。

北京の日本大使館前では、カメラマンめがけて植木や卵、ペットボトルが飛んできた。投石が当たり、うずくまる記者もいた。江蘇省蘇州では、暴徒化した一部がゴルフクラブを振り回し、次々に日本料理店を破壊した。日本車は蹴飛ばされ、ひっくり返され火を付けられた。

殺気立ったこの騒ぎの渦中で、東京写真記者協会に所属する共同通信中国総局(北京)の写真・映像記者らが撮影した「中国各地で反日デモ」が協会賞をいただいた。

受賞作品を見ていて、写真家ロバート・キャパが後輩に残した至言を思い出した。「君の写真が傑作にならないのは、あと一歩、被写体に近づいていないからだ」。報道カメラマンは身を危険にさらすのと引き換えに、起きたことを世界に伝える。撮影する「位置」はプロ魂の発露でもある。

5枚の写真に共通するのは、被写体に肉薄する「位置取り」だ。買い物に使うエコバッグに広角レンズを付けたカメラを入れ、デモ隊に紛れ込み、至近距離から表情を捉えた1枚。石が飛び交う日本大使館前で、バリケードを乗り越えようとする群集に恐怖を感じながら、素早く身を隠すために武装警察隊のすぐ後ろで撮った1枚。写し取られたデモ隊の怒りの表情からは「反日」だけでなく、中国政府や世の中に対する不満が読み取れた。いずれも最前線で体を張ったプロの仕事だった。

中国総局カメラマンの陣容は現在3人。本社から赴任して約半年の写真・映像記者Y君、中国生活約15年で外国通信社のストリンガーを経た契約カメラマンI君、写真の腕を日々磨く同総局3年目の助手S君だ。

中国の面積は日本の約25倍。写真取材のカバーエリアは途方もなく広大だ。3人は当局の取材規制にもひるむことなく、超大国の素顔を今日も写し続けている。