【写真説明】津波で大勢の児童・教職員が犠牲となった大川小学校近くの草地に、一輪の小さなヒマワリが咲いていた(2012年8月19日、宮城県石巻市)

=「記憶 忘れてはいけないこと5」より

震災発生から間もない2011年4月、東京本社で始めた、東日本大震災報道写真ギャラリー「記憶 忘れてはいけないこと」が5回目を迎える。現在、3月1日開催に向けて慌ただしく準備を進めているところだ。当初は、写真プリントを展示パネルに貼りつける慣れない作業に四苦八苦しながら、部員と社内ボランティアがカッター片手に格闘した。1000通近い案内葉書の宛名書きもあえてプリンターに頼らず、今でも手書きにこだわっている。文字通り「手作りの写真展」なのである。

試行錯誤の連続だが、心がけていることがある。それは、説明的で押しつけがましい写真はできるだけなくそうということだ。被災者のふとした表情や、被災地の何気ない光景。その場の雰囲気をすくい取るような、温かなまなざしが感じられる一枚を大切にしている。一方で、被災地の厳しい現実に目を向けることも忘れない。写真によっては、もう少し深い背景や被災者の心情を伝えたいものがある。そういう時には、部員が取材した長目のメモを添える。押しつける気はないが、さらっと見て終わりというのも残念だ。その辺りのバランスの難しさをいつも痛感している。

写真展を続けてきてよかったのは、来場者の生の声を聞けることだ。昨年10月に4回目を開いた時、一点一点食い入るように写真を見ていた中年の男性が受付にやってきた。聞けば、広告写真を撮りながら、被災地に通っているという。「この写真展にはぬくもりがある。ぜひ続けて欲しい」と励ましてくれた。日頃、多くの読者に情報を届ける仕事に携わっていながら、読者との接点が極めて少ない身にとっては、グッとくる一言だった。

震災直後と比べ、世間の被災地への関心が薄れてきているのは否めない。しかし、気の遠くなるような原発事故の処理や復興への取り組みは始まったばかりだ。この写真展を通して、ひとりでも多くの人に被災地の今が伝わればと願っている。