コラム
《新聞写真に思うこと》
2月1日付けで、朝日新聞東京本社編集局の写真センターマネジャー(写真部長)に就任しました。入社以来28年間、あくせく現場を駆け回ったのが16年で、残りの12年はデスク稼業です。
写真の原点は究極のスナップだと思っています。「写真は記録。写さなければ意味がない」とよく言われます。なにげない街角の風景やその時代を写した事象など、そこに切り取られている情報量が写真の命ではないでしょうか。
取材現場を離れて久しいのですが、「いつでも現役復帰」との心構えでカバンのなかにはコンパクトタイプのデジタルカメラを持ち歩いています。スナップが中心ですが、変貌する都心の街並みなどを撮りためています。
なかでもこだわりをもっているのが「富士山」です。静岡県人としての愛着もありますが、帰省の際や出張時の車窓などから機会があえば撮影しています。おととしまでの福岡勤務時代はその楽しみをさらに満喫できました。羽田発福岡行きの航路が富士山上空を飛行するコースだったからです。山梨県側からみる富士山は裏富士なのですが、その四季折々でみせる姿がなかなか美しく輝いています。早朝便のときなどは「前方左窓側」の席を事前に予約。雲間に隠れてみえないこともあれば、美しく輝く姿、伊豆半島までがくっきりみえる秀峰に一喜一憂しました。
通常われわれがする空撮とは違い、この撮影は航空会社の機長判断しだいですので、せっかく天気が良くても山の真上過ぎて見えないときもありで、ほんの一瞬しか見ることができない富士山撮影はスリリングでなかなかの醍醐味でした。
新聞社におけるここ二十数年の最大級の変革は写真でしょう。ものすごいスピードで技術革新が進んだ新聞写真はあっという間に取材した結果が瞬時に得られるデジタル時代に飲み込まれていきました。入社以来、さまざまな出来事に遭遇し取材してきましたが、当時はフィルム全盛のアナログ時代。先輩たちから的確で迅速な暗室処理を求められ、四苦八苦の連続だったことを覚えています。
しかし、その手作り感のある写真プリントはとても丹念につくられていて、紙面で写真の訴求力を高める重要な役割を担っていました。デジタル化によって写真は誰もが撮れるようになったこともありますが、その表現力が若干淡泊になったような気がするのは考えすぎでしょうか。とはいえ、その速報力は絶大だと痛感していますが。
朝日新聞に残される約480万枚の古き良きニッポンを伝えるプリント写真。この膨大な写真も順次データベース化され、公開していく予定です。デジタル化の波のなか、動画も注目されているが、個人的にはやはり人々の心に残る印象度の強い一枚の写真にこだわっていきたいと思っています。よろしくお願いいたします。