コラム
《機材の進歩》
【写真】スノーボード男子スロープスタイル予選前練習で、ソチの大空を飛ぶ角野=2014年2月6日
自分が現場で取材していたころは、フィルムカメラだった。1本のフィルムは36コマしか撮れない。残りの枚数を頭の中で数えながら撮影したものだ。
今のデジタルカメラは記録メディアがあれば何コマでも写真が撮れ、画像をその場で確認、消去もできる。便利な時代になったものだと思っていたが、最近デスクが部員に「写真撮り過ぎ」、「写真送り過ぎ」と指導しているのをよく耳にする。何故かと考えると、フィルム時代からデジタル時代になり、取材現場でカメラマンが使用する機材(カメラ、画像送信機)の性能が、驚くほどの進歩を遂げているからではと思う。今はピント合わせはAF、連写もでき、フィルム時代の職人技術が無くても良い写真が撮れ、瞬時に画像を本社に送れる時代なのだ。
2月に開催されたソチ冬季五輪で本紙記者が撮影したスノーボードの連続写真は、ジャンプ台を回転しながら飛んでいく選手の連続20コマ写真だ。撮影前に連続写真を並べるフレームを決め、ジャンプ台を飛び出した選手をシャッター押しっぱなしで撮影。パソコンで画像を処理し、約1時間で本社に送信したそうだ。この写真は撮影機材の能力を最大限に生かした良い写真だった。フィルム時代のカメラの秒間シャッター回数は5コマが限界。このような連続写真を作るのは、ムービーカメラの様な特殊カメラ(アイモ改造機)で撮影し、長巻フイルムからプリントした画像を1枚ずつ切り貼りし、それこそ1日がかりでの制作だった。
スポーツ紙のカメラマンが1年で一番多く取材するスポーツの現場は、プロ野球だ。プロ野球の撮影では、瞬時にレンズを向ける方向を決めなければならない。投手が投げたボール、打者が打ったボール以外の場所に、カメラを向けなければならないケースが多々ある。走者が進塁、打者が打撃の後にガッツポーズなど、状況において瞬時の判断が要求される現場なのだ。自分が取材していたフィルムカメラ時代は、ピント合わせが優先、タイミングは二の次。息を止め、必死にピントを合わせたものだ。現在はカメラのAF機能が格段に向上し、目標を確実に捕捉できればピントを気にせずシャッターを切ることができ、連写も可能となった。
「写真撮り過ぎ」と部員を指導したデスクに理由を聞くと、プロ野球を取材した部員の撮影方法を指導したそうだ。一般的にプロ野球取材者が1試合で切るシャッター回数は、約1000ショット以上だ。その部員は日頃からシャッターを切る回数が多く、打者が打った瞬間から走りだして塁に到達するまでシャッターを押しっぱなしで撮影したり、投手が投球動作に入った瞬間から撮り続けたり、という撮影をしていたようだ。ベストのタイミングはなく、ただシャッターを押しっぱなし。その結果として自分で狙ったタイミングがなく、同じような写真ばかり撮ってしまい、本社に送る写真の選択に時間がかかったというわけだ。
カメラのシャッターユニットはシャッターが切れる限界回数が決まっている。本紙カメラマンが使用しているキヤノンEOS Mark X で40万回。ユニット交換が約5万円かかる。野球担当者のカメラはシャッターユニットがわずか1年で交換になる。今年に入ってシャッターユニットの交換が多発し、さすがに私も若い部員達にシャッターの使い方を指導した。
フイルム時代の写真送信は、写真送信専用機で電話回線を使い、カラー写真1枚を本社に送るのに20分かかった。現在はパソコンに画像を取り込み画像ソフトで処理、送信ソフトを使ってネット回線で送信、1枚の写真を送信するのに10秒とかからない。「写真送りすぎ」とデスクの指導を受ける部員の特徴は、撮りすぎで書いたように同じ様なコマを撮りすぎ、選択に迷い、多くのコマを送信してしまう。瞬時に送信出来るので、肝心の写真が撮れていない時に、それをごまかすために多くのコマを送るなどだ。
最後に、本紙カメラマンのこれぞ決定的瞬間写真をお見せしたい。9月9日、サッカー日本代表対ベネズエラ代表の試合で、柴崎選手がボレーシュートを放つ瞬間を見事に捕らえた写真だ。サッカーの撮影ではピントを合わせる対象の前に障害になる物が多く、ピントボタンを押しっぱなしでは撮影できない。選手の配置やボールの上がる方向などからシュートを放つ選手を瞬時に判断し、対象選手を把握してピント合わせを開始しシャッターを切る。この写真はカメラの機能を見事に使い切った写真だと思う。このタイミングの写真が翌日の紙面に掲載されたのは、本紙だけだった。
取材で使う機材の性能は飛躍的に高性能化してきたが、その機能を完全に使いこなすところまで到達していない部員もまだまだいる。いろんな現場を経験し、取材機材を有効的に使いこなしてもらいたいと思う。
とは言うものの、現場を離れてかなりの年数がたつ私も、高性能を使いこなす自信はない。