年明け早々の1月7日、横浜地検川崎支部から集団強姦や強盗などの疑いで逮捕勾留されていた容疑者の男が逃走する事件が発生しました。凶悪犯が逃げたことで、地域住民の不安も一気に高まりました。各社は、身柄確保に向けて逃走した横浜地検川崎支部での24時間態勢の張り込み取材を始めます。

カメラマンにとって、この季節の張り番はとても辛いものです。寒さに震えながら、不意の出頭にも備えるローテーションを切れ目なく続けることになりました。

事態が大きく動きはじめたのは、1月9日の昼前のことです。NHK横浜放送局から、「横浜市郊外の団地で警察が集結している」との情報が入りました。
この一報を受け、ニュースセンターの映像取材デスクは、地検周辺の取材クルーを各社に気づかれないように少しずつ動かします。また、東京ヘリポートからは取材ヘリコプターも離陸し、現場から距離を置いたみなと未来地区で前進待機します。

午後1時前、現場周辺のカメラマンから「動きがある!」との情報が映像取材デスク席に入りすぐさま、待機していたヘリを向かわせました。およそ5分後、ヘリの搭載カメラは、大勢の捜査員に囲まれた容疑者の姿を捉えます。

この瞬間から、逃走犯の身柄確保を生中継で伝える前代未聞の特設ニュースがはじまりました。ヘリ搭乗のカメラマンは、手錠や腰縄などが映らないように、サイズに気を配りながら撮影に当たります。身柄の確保から、パトカーへの乗り込み、白バイの先導による横浜地検川崎支部への護送まで、ヘリはリアルタイムで、伝え続けました。

そして、地検では、長い張り番を務めてきたカメラマンがパトカーから降ろされる容疑者を狙います。容疑者の顔をアップで捉えた映像も臨場感いっぱいの生中継映像で、茶の間に届けられました。
テレビの強みは、同時性や速報性とよく言われます。一昔前まで原稿が無ければ、映像が出ないことさえありました。それが今では、生の現場映像が入った瞬間に特設ニュースがはじまるケースも多いのです。最近の災害報道などでは、取材ヘリコプターが被害の実態を次々と明らかにしています。

映像取材から伝送・編集・放送という流れが大きく変わっています。現場カメラマンは、初めて目にした現場でも短時間に状況を把握して撮影に臨み、時には生中継でリポートする能力が求められています。そして、取材指揮に当たる映像取材デスクには、より先を読んだ采配や高度な判断力が必要とされ、現場の緊張感は高まるばかりです。

その一方で、カメラマンが現場到着の一番手とは限りません。スマートフォンなどの普及により、緊急報道では視聴者からの映像投稿が急増しています。ユーチューブやツイッターにアップされた視聴者映像を一報として、カメラマンが接写する機会も増えています。

昨年、私にも業務用のスマートフォンが貸与されました。先日、自宅近くで濃い霧が発生したため、スマートフォンの動画機能を使って撮影し、弊社へ投稿しました。影響が少なかったため採用には至りませんでしたが、カメラマンを指揮する責任者として少しは“自らの撮影”で貢献したいという思いはあります。

入社の季節、挨拶ばかりが多くなるこの頃ですが、報道カメラマンとしてのセンスが錆びつかないよう自らチャンスを狙うとともに、撮影にチャレンジする醍醐味をこの世界に入ってくる若手にしっかりと伝えていきたいと思っています。