コラム
《白鵬の連勝》
大相撲の東横綱白鵬が九州場所2日目に平幕の稀勢の里に寄り切られ、初場所から続いた連勝は63でストップ、戦前に双葉山が記録した史上1位の69連勝には届かなかった。
しかしその後連勝して優勝決定戦では平幕・豊ノ島を優勝決定戦で下して5連覇で17回目の優勝を果たした。平成18年(!)以来の日本人力士の優勝はならなかった。
報道カメラマンとアマチュアとの違いのひとつは、スポーツ写真が撮れるかがポイントになる。大きな望遠レンズを自在に扱い被写体の動きの一瞬を切り取る技術は、競技、選手の知識、集中力や運動神経、運など多くの要素があるが、撮影ポジションもそのひとつだ。
プロ野球は一塁、三塁、センターなどのカメラマン席、サッカーもゴールライン後方など決められた取材席からの撮影になる。ヨット、ボートは水上から撮影できない限り相当離される。被写体から近いほど良い写真が撮影できるチャンスが多い。では間近から撮影できるスポーツは何か?
大相撲取材は制限が多いが、近くから撮影ができる。「砂かぶり」といわれる土俵の東西審判員の並びの最前列で撮影できる。12人が土俵を囲み、日替わりで取材位置がずれる。ボクシングなどの格闘技系があるが、中腰の姿勢での撮影になる。2メートルの距離でじっくり座って取材できるのは大相撲ぐらいだ。決まれば迫力のある写真が紙面に載る。しかし危険が伴う。「うっちゃり」、「寄り倒し」など土俵際でもつれる相撲は、力士が「降ってくる」のを覚悟しなければならない。カメラやストロボの破損は当たり前で、けがをする時もある。
蔵前国技館で取材していた頃、腰高で投げられやすい高見山の取り組み時には緊張した。手前に力士が来たときには逃げ方を考えながら、シャッターをどこまで切るかとっさの判断をせまられた。デスクがフィルムを見ればわかるので逃げるわけにもいかなかった。白鵬の63連勝中の決まり手を見ると、「寄りきり」19回、「上手投げ」17回、「押し出し」、「すくい投げ」と続き、砂かぶりのカメラマンにとっては比較的「安全」な横綱だ。
7月の名古屋場所。相撲協会は野球賭博問題の影響を受け、優勝力士への天皇賜杯を辞退した。白鵬は賜杯のない千秋楽の表彰式で涙を流した。「何回も優勝している自分でも変な気持ちになるのだから、ほかの力士が優勝したら大変な思いだったと思う。そういう意味で自分が優勝してよかった」とのコメントは素晴らしかった。
九州場所で13連勝。連勝が続くと今度は、来年の名古屋場所で大記録達成になる。
2010年12月