【写真】日本がワールドカップに初出場したフランス大会の開幕戦でスコットランドに勝利して喜ぶブラジルのサポーター=1998年6月11日、パリ・サンドニ競技場で(筆者撮影)

オールスターゲームが終了して、プロ野球はいよいよ後半戦に突入しました。古くから日本人は節目を大事にしてきましたが、報道の世界も例外ではありません。ワールドカップやオリンピックなどの大イベントでは、「開幕まで一年」や「あれから一ケ月」など節目に合わせた紙面を作成します。特にスポーツ紙ではプロ野球のキャンプインやペナントレース開幕日は特別な日で、各社が独自の視点で一面を競い合います。担当カメラマンも選手と同じような高揚感や緊張感を持ってその日を迎えているはずです。オールスターゲームが終わるとシーズンの折り返し。球団、選手にとっては大きな節目で、好位置にいるチームはさらに上を目指し、下位に甘んじているチームは心機一転の巻き返しを図るチャンスです。ファンの心躍る好ゲームを展開して、一面をにぎわしてほしいものです。

 

 冒頭から「オールスターゲーム」や「ワールドカップ」「オリンピック」と記してきましたが長たらしく、さらに片仮名が多くて読みにくく感じませんか? 新聞ではそれぞれを「球宴」「W杯」「五輪」といった略表記を用いて紙面化しています。見出しや記事の字数が限られている新聞ならではの工夫ですが、文章がコンパクトになる上に、文体も滑らかで全体的に読みやすい紙面になります。今ではテレビや雑誌にも使用され、読者にも広く受け入れられている略表記ですが、「W杯」については多少論議があるようです。私の回りにも「あまり好きな言葉じゃない」という人は少なからずおり、サッカーが好きな人ほど違和感を持っているようです。

 

 「五輪」は五大陸を五色で表現したシンボルマークを由来とした素晴らしい言葉だと思います。読売新聞社の記者が考案したと言われていますが、オリンピックという壮大なスポーツの祭典を端的に表現しながら、日本語としても美しいと思います。「球宴」もまあまあでしょう。「オールスター」を直訳したわけではなく、野球をイメージしながら、華やかさとお祭り気分のような雰囲気が伝わってきます。対して「W杯」には由来や創造性がなく、肝心な世界観もありません。そもそもW=世界とするには無理があり、事務的な言葉の域を出ていません。

 

 では、どう略表記すればよいのか。「World Cup」をそのまま日本語に置き換えると「世界杯」となり、何の大会なのかわからなくなります。では頭文字を取るとどうなるか。「WC」…これはちょっと。結果として「W杯」となったのもやむを得ないような気がしますが、さらに発音も問題です。「ダブルはい」なのか「ダブリューはい」なのか。どちらにしても語感がよろしくありません。今回の南ア大会のテレビニュースを注意して聞いていたら、アナウンサーは「ダブルはい」と発音していましたが…。

 

 スポーツに限らずワールドカップを冠する催しが乱立していますが、ワールドカップと言えばサッカーのワールドカップのことを指します。その正真正銘のワールドカップを「W杯」と記すことや、「ダブルはい」と呼ぶことにファンは違和感を覚えるのでしょう。新聞紙面は略表記のオンパレードで、日々「新語」も誕生しています。むろん読者の立場に立って考えた言葉なのですが、評判の良いもの、お叱りを受けるもの玉石混合です。先ほど「南ア大会」と記しましたが、次回の2014年ブラジル大会はどう略されるでしょうか。漢字の「伯剌西爾」は馴染みが薄いので頭文字をとった「伯大会」になることはないでしょう。「ブ大会」もまさかとは思いますが、テニスのデビスカップを「デ杯」と略す新聞業界ですから少し心配です。

 

 当たり前に使っている略表記や言い換えが、実は事の本質を損なうことになっていないか。「W杯」が「絶対ダメ!」とは思いませんが、新聞を生業とする私たち自身が節目、節目に見つめ直す、考え直すことが必要だと考えます。あれこれ愚痴のようなことばかり記してきましたが、何か「W杯」に代わる素晴らしい略表記はないでしょうか。世界観があって、夢や熱気を感じられ、そして日本語としても美しい…。次大会までにどなたか妙案を!