コラム
「フォトポジション」
上空から撮影したパナシナイコ競技場。1周330メートルのトラックにはヘアピンも =2004年、ギリシャ・アテネ
(いずれも筆者撮影)
「東京駅をバックにしたゴールは絶対に絵になる」。
今年3月29日、会見で記者団を前に胸を張り、「東京マラソン」のゴール地点の変更を発表したのは、舛添要一前東京都知事です。
首都東京を駆け抜ける東京マラソンは、2007年に始まり、今年2月に第10回大会をむかえました。参加ランナーは約3万6千人で、2013年からは「ワールドマラソンメジャーズ(WMM)」の仲間入りを果たし、世界のトップランナーが出場する大会に成長しました。
東京マラソンは産経新聞と読売新聞などが共催しています。両社が隔年で代表撮影などの幹事業務を務めており、2020年の東京五輪イヤーは産経新聞が担当します。幹事社は、取材を希望する報道各社が滞りなく取材できるように、東京マラソン財団の担当者らと話し合いを重ね、撮影場所(フォトポジション)の変更など調整を繰り返しています。
「舛添さん、簡単に言ってくれるよなあ…」。ゴール地点の変更を知らされたときの率直な感想です。
マラソンと車いす、市民ランナーらが、同じコースを走る東京マラソンは、フォトポジションの設定も複雑です。特にゴール地点は、ゴール後の減速エリアが必要な車いす競技と、マラソンとで、ベストな位置も異なるのです。
東京・大手町の産経新聞本社から、東京駅前のゴール予定地点までは歩いて10分ほど。産経では私がこの7年担当しており、すでに東京マラソン財団の方々と現地打ち合わせを重ねています。
スポーツ写真に限らず、少しでも良いフォトポジションを確保することが成功の秘けつ。どんなに高価な機材を用意しても、撮影場所の差で負けるケースは少なくありません。
これまで夏冬6大会のオリンピックを取材しましたが、マラソン競技に限って言えば、2004年のアテネ大会(ギリシャ)が最も印象に残っています。マラソンのゴールは、1896年にアテネで行われた第1回近代五輪でメーンスタジアムとして使用された「パナシナイコ競技場」でした。
上空から見るとU字型の競技場で、スタンドは総大理石造りです。アテネ郊外の街「マラトン」から42・195キロの距離にあります。歴史的なスタジアムで取材できたことはカメラマン冥利につきるのですが、フォトポジションは決して褒められたものではありませんでした。限られたスペースに何十人ものカメラマンがすし詰めとなり、〝五輪の聖地〟を生かした写真を収めることはおろか、ゴール写真を撮影するのがやっとでした。ただ女子マラソンでは、野口みずき選手が金メダル獲得の快挙。東京の本社からのオファーは笑顔のゴール写真。野口選手に助けられました…。
東京駅をバックにゴールするランナー。
〝ベストポジション〟が設定できればすばらしい光景となるでしょう。政治資金の問題で都知事を辞職した舛添さんですが、これが唯一の?功績となるのかもしれません。
来年2月の東京マラソンでゴールのシャッターを押すのは私ではありません。しかし、パナシナイコでの経験を胸に、報道各社のカメラマンがすばらしい写真を撮れるよう汗をかいています。
2016年7月