家族とともにオープンカーに乗ってパレードする具志堅用高さん。沿道からは「ヨーコー」コールが響き渡った(米ニューヨーク州カナストータ)

具志堅用高さんは会場近辺のあちこちでサインを求められ続けた(米ニューヨーク州カナストータ)

ボクシングの元WBA世界ライトフライ級王者である具志堅用高さんのことを「おもしろいおじさん」、「天然ボケの人」などと言う人が多い。勘違いしているのではないだろうか。正確に言えば「おもしろいおじさん」ではある。計算しているのかどうか分からないほど「天然ボケ」であるのも否めない。それでも、断じて違うと言いたい。若者は知らないだろうが、具志堅さんはすごいボクサーだったのだ。

それがきちんと評価された。昨年末に国際ボクシング殿堂入りが決まり、6月14日には同殿堂がある米ニューヨーク州郊外のカナストータという小さな街で表彰式が行われた。デイリースポーツで長くボクシング評論をお願いしている縁もあって、米駐在記者を取材に派遣した。
同時選出された故・大場政夫さんとともに日本人では4、5人目の殿堂入りという快挙。日本記録の13回連続防衛などの偉業を成し遂げた具志堅さんをカナストータはリスペクトして迎えた。

写真は、表彰式前に行われたオープンカーでのパレードの1コマ。取材した記者によれば「ヨーコー」、「ヨーコー」のコールが沿道から鳴り響いたという。具志堅さんもこぶしを突き上げてノリノリ。同乗した日本から同行の長男、長女も笑顔が絶えない。孫はまだ理解していないかもしれないが、あと数年もしてこの写真を見たときにはきっと、誇りに感じるだろう。
アメリカだな、と思う。ニューヨークから車で移動すれば5時間ほどかかる田舎街は、毎年6月の第2週はお祭りムード一色だという。殿堂ウィークには表彰者らを招いたレセプション、ゴルフ大会など行事が毎日あり、日曜日の午前中のパレード、午後の表彰式でクライマックスを迎えるそうだ。

具志堅さんは大好きなゴルフの大会にも参加して、連日、雰囲気を堪能したという。週末には街の人だけではなく、いわゆるカードマニアのようなコアなファンがカナストータに集まり、〝お宝〟を収集しつつ、殿堂入りしたレジェンドに敬意を払う。引退して34年になる具志堅さんは「みんなが僕のことを知っていた。ボクシングを一生懸命やってきてよかった」と感激した。

厳かな雰囲気の表彰式で、具志堅さんはいつもの具志堅さんだった。スピーチではたどたどしいながらも英語で一生懸命、甲高い声を張り上げた。殿堂入りの証しである指輪をもらって席に戻ると、隣りに座った元統一世界ヘビー級王者のリディック・ボウ氏(米国)から「見せてくれ」と言われて手渡したまま、返してもらえず、戸惑ったような表情を浮かべた。会場がどっと沸き、やがてまた拍手と歓声が具志堅さんを包んだ。

洋の東西を問わず、具志堅さんは「おもしろいおじさん」なのかもしれない。もっと言えば、そのタレント性はひょっとして世界でも通用するのではとも思った。もちろん、そんなふうに心地よく感じるのも、背景にアメリカらしいリスペクトの念があるからだろう。日本にもこんなイベントがあればいい。そう考えさせてくれたのも、具志堅さんが偉大なボクサーだったからにほかならない。

2015年7月