誠に申し訳ないことに、今月のコラムは写真がない。コラムの執筆もほぼ終わり、あとは写真を用意するばかりの段階になって初めて気が付いたのだが、表題にもある3枚はいずれも外電だったり美術館からの提供写真であり、勝手にHP上で使用する訳にいかない写真だった。異例中の異例ですがご勘弁を!

で、フィルム時代の遺物とも言える〝裏焼き〟という言葉。デジカメ世代の若い方にはなじみのない方も多いのでは。簡単に説明すると、写真のフィルムには表面と裏面があり、プリントやスキャンの際に、表裏を間違ってしまうと、左右が逆となり鏡に映った状態の画像になる。当然、事実と異なる写真なので、発覚すればすぐに写真を取り消し、正しい写真を再送する。私もその昔、締め切り間際に届いたフィルムから裏焼きプリントを作成。配信直後に気付いたので事なきを得たが、デスクからこっぴどく叱られた経験がある。自分が撮影した写真であれば、人の向きや動きなど画像の記憶が残っているため、まず間違えることはない。〝裏焼き〟は決まって他人が撮影した写真を処理する際に発生する。
デジカメ時代に入り、最近はほとんど死語と言っても良いくらい遭遇することもなかったが、この10月からの2カ月間に、何と3度も出くわすこととなった。

ひとつは「関西美術展案内」用に使用した振袖を広げた写真の〝裏焼き〟。入社2年目の校閲記者が写真説明にある「松桐鳳凰文様振袖」の文字をHPなどで確認中に、柄が左右反転していることに気が付いた。このコラムで写真をお見せできないのが、もうホントに残念だが、柄の違いはほんのわずか。提供元の美術館に問い合わせると、ポジフィルム(スライド)をスキャンする際に、表裏を誤って取り込んだためとわかった。校閲記者の大ファインプレーに感謝しまくり、校閲部長賞を授与していただいた。

2つ目はビートルズ元メンバーのジョン・レノンさんが生前、ポール・マッカートニーさん夫妻に送った手紙の下書きが競売にかけられた話題用の顔写真。外国通信社から当日配信された写真を転電したが、ある加盟社から「過去に何度か配信されたモノと比べると、明らかに向きが逆だが…」との問い合わせがあった。レノンさんは髪を頭の中央で分けており、トックリセーターの胸にマークはなく、首回りのアクセサリーも左右対称で、確認のしようがない。すぐに写真の使用差し止め配信先に問い合わせたが、時間がかかりそうなので結局写真を取り消した。その後説明があり、「アーカイブにある別の写真には、マイクにNBC、Channel7といった文字が写っており、その写真との相違から裏焼きと断定した。原因はフィルムスキャンしてアーカイブ登録する際に表裏を間違えたようだ」とのことだった。ここまでの2件は、いかにも起こりそうなスキャン時の事故だが次の原因は凄い。

ノーベル物理学賞の授賞者発表会場のスクリーンに映し出された3人の受賞者のうち、1人の顔写真が〝裏焼き〟だった。共同は外電が配信した中から顔写真にトリミングしたものなど3種を配信したが、深夜に、やはり加盟社から「都内紙のサイトには左右逆で出ている」との指摘があった。ノーベル財団のHPに出ている写真も髪の分け目が逆だった。すぐに使用を差し止めたが、これまた裏焼きと断定できる見込みがないため、結局3枚を取り消した。次の日の夜、スウェーデンの王立科学アカデミーから回答があり、「受賞者3人の組写真の見栄えを良くするために、意図的に1人の写真を反転させて公表した」とあっさり認めた。つまり左端の人物が左向きで外を向いてしまうため、右向きになるよう反転させたとのことだった。「誤って」ではなく「意図的に」だと。これには驚いた。われわれの感覚ではちょっと信じられない。もしかしたら〝裏焼き〟で大騒ぎするのは日本人だけか…。

写真部から暗室やカラーネガ自動現像機がなくなり、完全デジタル化されて10数年。すっかり耳にすることもなくなった案件だが、時々思い出すのではなく、常に意識していないと痛い目に遭う。皆さんも、特に古い時代の提供写真やアーカイブ作成時にはご注意を。

2016年12月