仙台女子プロレスの道場を訪ね、宮城倫子ら所属レスラーの練習を取材する中学生記者たち(2015年7月)

第1回(2012年)中学生新聞の最終面。初年度はタブロイド判ではなくブランケット判4ページの紙面を作成。

第2回(2013年)の最終面。岩手初の女性プロボクサー・佐藤由紀さんを大々的に取り上げた

第2回(2013年)の中面

第3回(2014年)の最終面。仙台女子プロレス・里村明衣子代表の練習を取材し、トレーニングを体験

第3回(2014年)の中面

第4回(2015年)の1面。クライミング日本代表の三浦絵里菜さんを取材しボルダリングも体験した。

第4回(2015年)の中面

通常の現場取材業務とは別に行っている楽しい活動がある。「中学生新聞制作ワークショップ(主催・読売新聞東北総局、報知新聞社東北支局、宮城県読売会、仙台市教育委員会)」という宮城・仙台市内で毎年7月下旬に開催する5日間のイベントだ。私はそこで主に写真担当の講師を務めている。支局長として東北支局に赴任していた2012年にスタートし、今年が第4回となった。第1回は写真に加え、記事の指導も行っていたが、翌年4月に東京本社写真部に戻ったため、第2回からは後任の支局長の「お手伝い」として参加している。

仙台市内の9つの中学校から2人ずつ、計18人の中学生たちが参加。記者になって現場でインタビュー、写真撮影などの取材をして記事を書き、タブロイド判12ページの本格的な新聞を作るという内容だ。記者の取材に同行する「記者体験」はあるが、編集、販売のプロ8人の講師が指導し実際に新聞を発行するまでのイベントは数少ないだろう。毎年9月初旬に完成する約7万部の新聞は市内の中学校、宅配の新聞折り込みなど多くの人々に無料配布している。

当時、雑談の席で「総局、支局、読売会(販売店の会)が同じビルの中にいるのだから何か一緒にイベントができないものか」と皆で盛り上がった事がきっかけだった。経費、取材用のカメラ、取材先、レイアウト担当、印刷、教育委員会の説得など問題は山積み。当然、私の大きな役割はカメラ機材を集める事となった。長期に渡り弊社でメンテナンスなどを担当して頂いているキヤノンに相談したところ、20台のショートズーム付きカメラと望遠ズームレンズ10本を用意できるとの回答を受けイベント実現を確信。大いに感謝したことは一生忘れられない。

18人の中学生は6人ずつ3班(読売2、報知1)に分かれる。制作する新聞は読売が7ページ、報知が3ページを担当し、子供たちの取材風景写真を入れたドキュメント面と取材後記などを含めた12ページで構成される。意図的に1面から一般紙、最終面からスポーツ紙という面割りにし、写真の扱い方、見出しの付け方など大きな違いが瞬時に分かるような工夫も施している。自主性を重んじ、掲載写真、新聞の名前、見出しなどは子供たちが意見を出し合って決定。記事原稿に関しては「デスク」として我々大人の手が多少加わることになる。

参加の中学生たちは基本的に午前10時に総局会議室に「出勤」し、班ごとに各取材先に出向いて「帰社」、午後5時に「業務終了」する。毎年、イベントの初日は講師4人の座学講座。私の担当する写真講座では、良い写真例を見たり、シャッタースピードと絞りの相関関係など基礎知識を教えた後、近くの公園で撮影講習会を行っている。たまたま通りかかった犬をローアングルから撮影する方法や流し撮りなどを教えると、子供たちは新しい発見をしたかのように撮りまくる。4年間を通しても一眼レフカメラでの撮影経験者はほぼゼロ。ゲームのコントローラーと同じ感覚なのだろうか、始めはカメラの操作に戸惑っているが、最終日にはいつの間にか使いこなしていることにいつも驚かされている。

報知班の取材先は地元スポーツ&エンタメだ。仙台女子プロレス、女子プロボクサー、バスケットボールbjリーグ・仙台89ERS、クライミング女子日本代表、宮城テレビアナウンサー、アイドルなど紙面が明るくなる女性にこだわって取材をお願いしている。各班とも3~5件ほどの取材先に出向くがどこでも子供たちを歓迎。たどたどしい質問にもしっかり耳を傾け、撮影にも非常に協力的だ。
感動したのが第1回で取材した仙台女子プロレス。私の熱意が通じたのか、レスラーでもある里村明衣子代表は「取材が本気ならこちらも本気でやりますよ」と中学生の取材のためだけに主力選手2人による「無制限一本勝負」を敢行してくれたのだ。8分30秒にも及ぶ実践さながらの激しい戦いを悲鳴を上げながらリングサイドで撮影、インタビューする充実した取材となった。

活字離れが進む若い世代にイベントを通じて新聞に親しんでもらうのが大きな目的で、長い目で見た新聞販売促進なのだが、参加した子供たちと心をひとつにして新聞を作りあげて行く過程は本来の目的を忘れてしまうくらい楽しい。子供たちに良い取材をさせたい、良い紙面を作らせたいという気持ちは、睡眠時間を削って取材の下準備や後処理などを完璧に行ってしまうほどの本気パワーを生み出す。

実社会を肌で感じた子供たちから「仕事の大変さが分かった」、「挨拶、時間、我慢など親や先生に普段言われている意味が分かった」、「貴重な体験は楽しいことや学べる事が沢山あった」という感想を受けると、単なる新聞制作イベントというだけではなく、未来を担う若者たちの人間形成にも多少の影響を与えられている事に達成感を感じる。

「今回のイベントを終えて、新聞記者やカメラマンになりたいなぁと思った人はいるかな、手を挙げて~」と尋ねると、いつも反応は無し。弁護士や医者になりたいとのことだ。嘘でも手を挙げないところはやはり現代っ子なのかなぁと最後に大笑いしてイベントは終了する。

2015年9月