コラム
「宮里藍さん、お疲れ様でした」
スポーツ界では次から次へとニューヒーローやニューヒロインが誕生し、そして一線から退いていく。応援する多くの人たちは選手たちの成長、挫折など数々のドラマに自身を重ねたり、共感したり、夢を見る。同じ時代に活躍を見られたことを心底うれしく思うこともあるほどだ。
日本女子プロゴルフ界のパイオニア的存在も、2017年シーズン限りで現役引退する。小柄ながらゆったりとした大きなスイングから繰り出される正確なショットで優勝を積み上げた宮里藍。きょうだいゴルファーの末っ子、ハキハキとした受け答え、人懐っこい笑顔から「あいちゃん」の愛称でゴルフファンだけでなく多くの人たちにもその存在を知られている。モチベーション維持の難しさや体調面からの引退決断だが、03年に史上初女子高生プロゴルファーとなってから現在の女子ゴルフ人気を牽引し、海外女子ゴルファーからも一目置かれるだけに、今後活躍を見ることができないのは寂しいの一言に尽きる。
ゴルフ取材は片手で数えられるほどしか経験ないが、思い出深いのは2011年7月のエビアン・マスターズ(13年から5番目のメジャーに昇格し、現在はエビアン選手権)での涙の優勝だ。同年3月に高校時代過ごした仙台を東日本大震災が襲った。帽子には「負けるな日本」のバッジをつけ、仲間のゴルファーに声を掛けて募金活動なども行った。被災者のためにいいニュースを届けたいとの思いが裏目に出て好成績を収められずもがいた時期もあった。優勝後のスピーチでは自然と感極まって涙がこぼれた。幼少から時に厳しく、時に優しく指導してくれた父優さんと抱き合って喜んだ。日の丸を掲げて満面に笑みを浮かべ、ストレートに感情を表現する姿に人間臭さを感じた。
現役引退が選手たちの終わりではない。宮里藍さんを含め、後進育成など第2の人生での活躍にも関心は高まる。これからもファインダーを通してアスリートの喜怒哀楽や人間模様を切り取っていけたらと思う。
2017年9月