(北の大地 寄り添ってチュ(08年12月28日の毎日新聞朝刊1面)

日本橋三越で開かれた08報道写真展には、3万人を超える来場者があったそうです。たくさんの感想の中で、朝日新聞の天声人語(08年12月23日付)からは「愛機に添えた指先から、世界を震わす1枚が生まれる。筆にはまねできない一瞬の技、うらやましくもある」とわれわれ写真記者には励みになる一文をいただきました。また、毎日新聞写真記者が撮った秋葉原無差別殺傷事件の空撮写真も高く評価していただき感謝します。大不況、そして新聞を取り巻く閉塞感の中で、少し元気を取り戻しました。私が感じる閉塞感は部数減などの問題の他に、新聞が世間からうっとうしがられているのではないかという不安感からきています。

 たとえば紙面に家族の写真が載ると、昔は記念にプリントが欲しいと電話がありました。でも今は「なぜ勝手に撮ってネットに載せたんだ」というお叱りの電話やメールがほとんどです。以前は歓迎された取材先にもたくさんの規制が課されるようになりました。人権意識の高まりなど社会状況が変化していることも原因でしょうが、どうも新聞が嫌われているんじゃないかと思えてなりません。

 部員からこんな話も聞きました。サヨナラ列車の出発セレモニーで、大勢の鉄道ファンが報道用に仕切られたスペースになだれ込み、取材現場が大混乱したというのです。インターネット時代を迎え誰もが情報の発信者になりました。もうマスメディアに特権的な待遇は認めないぞ!ということなのでしょう。 

 花井事務局長の年頭あいさつにもありましたが、読者が好む写真とわれわれが重視する写真にも、だいぶズレが出てきたように感じます。最近、毎日新聞で一番反響があった写真はエゾフクロウのスケッチ写真です。酷寒の森で暮らすつがいのフクロウに、自分たち夫婦の姿を重ねあわせて、お便りをたくさんいただきました。殺伐とした世の中で、読者が求めているのは、生々しい現場写真ではなく「癒やし」なのかもしれません。

 「新聞に未来はない」とさんざんいわれています。しかし、ネットでも新聞でも媒体はなんであろうとニュースを責任持って取材する部門は不可欠です。地震、津波、戦争、事件、スポーツ、ファッション・・・国会まで、オールマイティに取材でき、世界中どこからでも迅速に写真電送できるノーハウと経験があるのは各社の写真部だけです。いろいろな面で厳しい時代ですが、新聞が愛され信頼されるメディアであり続けるため、日々の取材に真摯に取り組みたいと思います。

2009年2月